浜魂人 vol.3
小柳 正和さん
ITによって、いわきの医療と産業にイノベーションを

浜魂(ハマコン)に参加して思いをぶつけ、プロジェクトの始まりを宣言した人たちは、今、そのプロジェクトをどのように進め、どのような壁に直面しているのか。「浜魂人(ハマコンジン)」では、浜魂に参加した人たちの「今」をレポートします。三人目は、第1回浜魂で「当事者意識を持って地域医療に関わる」というテーマでプレゼンを行った小柳正和さん。現在は、地域医療をITでサポートする「株式会社HealtheeOne(ヘルシーワン)」を立ち上げ、代表取締役として精力的にビジネス展開をしています。起業に至った経緯や、ITへの期待について小柳さんに話を伺いました。

 

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小柳さんが株式会社 HealtheeOne を立ち上げたのが2015年の夏。ちょうど第1回浜魂に登壇して頂いた頃に重なります。現在は、東京といわきのオフィスを往復しながら、忙しい日々を送っています。起業する前は、大手総合商社やベンチャー企業に勤めていた小柳さん。なぜ「医療」の分野で起業したのでしょうか。

小柳:父が2008年の年末に末期ガンが分かりました。その時僕はパリに留学していたんですが、これは大変だということで一時帰国して。でも、そのうち父が終末期になりまして、在宅介護することになったんです。母に介護離職をしてもらって、自宅で父を見ていてもらっていたんです。僕は長男で、当時東京にいて何もできないのが歯痒かったので、毎週末東京といわきを往復しました。そこで初めて地域医療の現実を目の当たりにしたわけです。

田舎なので病気を治せないのは仕方がない、名医がいない、専門の医者がいない、それは覚悟していました。でも一番衝撃的だったことは、死ぬ場所を探すのが大変なんだってことです。母はたまたま介護離職ができる仕事だったし、僕も東京駅から実家のあるいわき市中央台のラ・パークまでなら高速バスで片道3000円くらいで帰れました。でも、これが例えば実家が大阪だったら新幹線代だけで相当な額になりますし、もし、この先母親まで介護が必要になってしまった時にどうしようかと。精神的・肉体的も負担が大きいし、経済的な負担もあるってことがよくわかりました。

父は2009年5月に亡くなりました。それをきっかけに、仕事とは全く別に、医療政策とか医療サービスをライフワークとして勉強し始めたんです。震災後は母親も体調を崩したりして。震災・原発事故から3年くらい経っても、医療環境が改善しているどころか、なんとなく悪化してるんじゃないかなって若干思うようになっていました。本当はどうなんだろうって調べてみたくて、厚生労働省とか福島県庁とかいわき市のHPからデータを引っ張り出して、それを勝手に分析して、自分なりに政策提案を作ったのが2015年の浜魂だったんです。

 

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そのときの小柳さんのプレゼンは印象的でした。医療の問題を、自治体や関係者に任せるのではなく市民自ら何ができるかを考えようと訴えたのです。若い医師をどういわきに呼び込み、定着させるのか。どのように市民はそこに関われるのか。激しいブレストになりました。

小柳:浜魂に出て、発表内容やその結果に対してコミットしていることを第三者の皆さんに示したことで、事業に対する責任感が増しました。これは、浜魂に出てみて感じた一番の効果かもしれません。それから、志と能力の高い同世代や自分よりも若い人たちとつながれたことも大きいですね。地域の市民が連携したり、思いを共有できて初めて医療の問題は少しずつ改善すると思うんです。いわき市は地方の「まち」だと思ってましたが、人材豊富な「都市」であるということに認識が変わりました。

例えば、いわきFCの向山聖也くん。彼は浜魂でもプレゼンしていますが、当時のいわきFCは小さな草サッカーチームで、いわきFCをもっと大きくするために、経営面や資金調達のことを教えて欲しいと頼まれていたんです。彼が本気なら僕も本気でやろうと思って、チームの運営母体だった社団法人の役員も引き受けて一緒に関わるようになりました。仕事をしながらも大きな目標を掲げ、情熱を持ってサッカーチームのことに取り組んでる向山くんの姿に、いわきって面白い人がいるんだなと思いましたね。

偶然、しかも急遽登壇することになった浜魂ですが、イベント自体のオーソリティを高めるも落とすも、登壇者のその後の行動次第であると理解しています。定期的にプロジェクト進捗状況を発表する機会を頂いているので、今後も、情報公開の場として活用させて頂ければと思いますし、私だけでなく、もっとたくさんの登壇者の進捗状況を発信していくことで、プロジェクトの大きさに関係なくみんなで温かく育てている雰囲気づくりができると思います。

 

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ヘルシーワンの事業は、地域の小さなクリニックなど、住民に近い距離で地域医療を担う重要な社会インフラである医院に対してデータとテクノロジーによって生産性向上支援を行うこと。いわきの地域医療の問題と聞くと、「若手医師をいかに確保するか」などがよく議題にあがりますが、なぜ小柳さんは「IT」に着目したのでしょうか。

小柳:医師が働きやすい環境を整えないと、いわきで働きたいという医師も増えません。現場の医師が煩雑な事務作業などに時間を取られていたりすると、医療に割く時間が減り、患者を診る時間が減りますよね。すると医療機関自体の売上にも関わり、地域医療全体の質も落ちてしまいます。地域を支える医療の領域に、マネジメントやITの考え方を導入し、医療に集中できる環境を作れば、少ない医師でも、1日に診察できる患者の数は増えます。そんな、行政だけではできないようなサポートを、民間ならできるはずだと思うんです。

ITの活用は、いわき市の製造業にもあてはまるはずです。いわき市の産業構造を見ると、いわき市は二次産業が盛んだということがわかりますが、企業の利益を見ていくと、実はあまり伸びていない。これ、要するに下請け企業特有の構造で、いいものを作っても、商品を作るメーカー側に広告やデザインの利益が取られてしまうわけです。生業の歴史として、文句言わずに汗水流して働こうという空気が強い面がありますよね、いわきって。そこにイノベーションを起こすにはITが必要だとずっと考えていました。

何ごともそうですが、事業というものを持続可能な仕組みにするためには、きちんとお金を回さなくちゃいけない。税金をひたすら投入すればいいかもしれませんが、それだけでは価値が生まれません。私たちのようなビジネスに関わる人間が価値を生み出しながら、持続可能な仕組みを地域医療で作っていく。それをITでやりたいと思っています。

 

プレゼン4

小柳さんは、これまでもベンチャー企業の立ち上げに関わるなど、事業のスタートアップに近いところで働いてきました。今回も、小さな地方都市での、医療という未体験領域での起業。様々なプレッシャーやリスクがありながら、それでもなお起業を志す小柳さん。起業への思いを伺いました。

小柳:経済とかビジネスって、何もしないって判断もそれはそれで正しいけれど、リスクをとってどうリターンを取るかって、案外みんな冷静に考えてると思うんです。この結果を得るには、こういうチャレンジをしなくちゃいけないって、そんなことよくありますよね。僕個人的には、今僕がやっている領域って他に誰もやってない領域だし、それだけ儲かるチャンスもあるということです。

起業するリスクとして考えるのは自己破産ですが、今のビジネス環境ではそこまでいかなくても有限責任でもやることができるので、失敗したとしても死ぬわけじゃないし、すっからかんになるわけでもない。失敗は次に繋がる財産になると考えれば良いし、お金だけを目的にしたらそれまでだけど、自分の中で生まれた価値があるはず。だからチャレンジすべきなんです。震災で亡くなられた皆さんの無念さに比べたら、チャレンジできること自体が幸せなことだと思ってます。

先ほどもいわきの製造業を例に出しましたが、いわきでは「いかに稼ぐか」という問題が、まだまだ共有されていないように感じています。野菜とかコメとかの農産物や水産物も同じ話です。被災地とか風評とか、そういうのは置いといて、普通のマーケットとか生産地とか、何か価値を作るってことに関してもっと考えないといけないし、場所なんて関係ないですよ。本来のポテンシャルに加え、プレイヤーも育ってきているように感じます。 むしろいわきはチャンスがあるはずだと思っています。いわきから、市外・県外・海外へともっと。

 

プロフィール

小柳 正和(こやなぎ まさかず)
株式会社HealtheeOne代表取締役社長CEO。1976年いわき市錦町生まれ。磐城高校95年卒。慶應義塾⼤学理⼯学部電気⼯学科卒業(⼯学⼠)。フランス HEC Paris School of Management 修了(MBA)。伊藤忠商事、Midokura (ソフトウェア開発ベンチャー)などを経て、2015年に株式会社HealtheeOneを立ち上げる。

小柳さんのプレゼン 第1回ハマコン「当事者意識を持って地域医療に関わる」

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