浜魂人 vol.2
鈴木 理絵さん
野良猫の問題は、地域に暮らす人たちの問題
浜魂(ハマコン)に参加して思いをぶつけ、プロジェクトの始まりを宣言した人たちは、今、そのプロジェクトをどのように進め、どのような壁に直面しているのか。「浜魂人(ハマコンジン)」では、浜魂に参加した人たちの「今」をレポートします。二人目となる今回は、第4回浜魂で「地域猫の問題を解決したい」とプレゼンした、動物愛護のNPO法人「LYSTA」代表、鈴木理絵さんを紹介します。浜魂に出場してからの変化や、活動の根源にある思いを伺ってきました。
鈴木さんが浜魂に参加したのは、2015年12月に開催された第4回浜魂。鈴木さんはそこで、深刻な野良猫の問題の現状をプレゼンし、支援を呼びかけました。プレゼン後には、早速クラウドファンドで資金を募り、JR湯本駅のそばの物件をリノベーション。今年3月に、里親募集型保護猫ふれあいサロン「Ohana(オハナ)」をオープンさせています。鈴木さんのプレゼンの本気度が、事業展開のスピードにも表れているかのようです。
鈴木:震災直後から旧警戒区域内の犬や猫を保護してきて、浜魂に出る前から、里親譲渡型の場所を作らないといけないという気持ちはあったんです。でも、実際に始める決心をつけるまですごく大変で。猫に貸してくれる物件も少ないし、まだまだ動物愛護に対する考えが根付いていないなかで、立ちはだかる壁の高さを感じていました。
そんななかで浜魂に参加して、皆さんのアイデアを聞けて、その中に、保護猫カフェのアイデアが結構出てきてことは後押しになりました。やっぱりそういうニーズがあったのかと気づかされたんです。地域猫の問題に関わってこなかった人たちの声って、やっぱり浜魂のような場に出てみないと感じられないことですし。やらなくちゃ、って思いは強くなったと思います。
オハナがオープンしたのは今年の3月10日。2階が保護猫ふれあいサロンになっています。1階は動物病院の届出も出していて、不妊去勢手術をする場所として使っています。オハナの立ち上げに当たって組織もNPOにしました。シェルターの掃除や餌やり、散歩、野良猫の保護、不妊去勢手術の手続きもありますし、書類の作成や助成金の申請などもあるので、かなり忙しいですね。
ただ、オープンしてみて、商店街の人たちも関心を持ってくれるようになりましたし、この間は湯本の小学校の生徒たちが町の探検中にここに寄ってくれて、私の話を聞いてくれました。30人くらい来てくれて。前から「命の授業」のようなこともやりたいなって思っていたので、こうしてサロンをオープンさせたことで広がる繋がりがあるんだと改めて気づかされました。
クラウドファンドでは最終的には600万円くらい支援を頂きましたが、支援してくれたのは元々の支援者の人が多かったです。本当は新規開拓を考えていたんですけど、いわきの人は10%くらい。あとは県外の方からの支援でした。なので、今後の課題はいわきの中で支援者を増やしきたいと思っています。
インタビュー中、サロンの保護猫たちは自由に動き回ったり、昼寝をしたり、遊んだり。それぞれ顔も表情も違っていて、自分の方に寄って来てくれて顔をすりすりされると、思わず「この子、家に連れて帰りたい」という気持ちが湧いて来てしまいます。でも彼ら、彼女らは、元々はみんな野良猫。人間の身勝手さで、野良猫にならざるを得なかった猫たちなのです。
鈴木:月に一度、「お見合いの会」を開いています。そこでは、1回やって1匹決まればいいかな、くらいの感じなんですけど、サロンでは、この3カ月で10匹以上の里親さんが決まりました。でも、シェルターにはまだ100匹以上いますよ。野良猫が増えてしまった公園に一斉不妊去勢手術に行くと、多いところで4、50匹くらいはいます。猫が不妊去勢手術を受けていないので、毎年のように仔猫が生まれて、どんどん増えてしまうんです。
不妊去勢手術は、一般の動物病院だと2〜3万円もかかってしまうのですが、LYSTAであれば、1匹7,000円で不妊去勢手術を受けられます。毎月、不妊去勢手術を専門でやっている埼玉県の獣医の先生に来て頂いて手術しています。いわきの市の助成制度もあって、不妊去勢手術をすると、1匹あたり3,000円くらい助成金が出るので、実際には、3〜4000円で手術が受けられるようになりました。
でも、元々はこの助成制度も、飼い猫だけが対象で野良猫には出てなかったんです。私は、野良猫って地域の問題なのに、飼い犬飼い猫に不妊去勢手術の助成金がでていて、野良猫は対象にならないというのはおかしいと思っていて。それで、市に要望書を提出して、野良猫の手術にも助成金が出るようになりました。保健所で殺処分するのも税金ですから。殺すより生かす方にお金を使うべきだと思いませんか?
鈴木さんの問題意識はとてもシンプルです。野良猫の問題は地域の問題だ。その一言に尽きるかもしれません。その問題意識を抱いたきっかけを伺うと、人と猫と地域の、複雑な問題が見えてきます。
鈴木:ある現場では、家主の旦那さんが野良猫に餌をあげていました。実はその旦那さんの奥さんは、野良猫を取り巻くご近所トラブルで参ってしまい、自ら命を絶ってしまっていました。そのことを知ったとき、もっと早く私たちがその現場に入って、餌をあげている猫たちの不妊去勢手術の手段を伝えてサポートしてあげられていたら、奥さんが命を絶つことはなかったんじゃないかって思って。
野良猫って、庭を荒らしたり、車を傷つけたり、ウンチしちゃったり、近所とのトラブルになりがちです。つまり、人の心を苦しめてしまう問題なんです。だから、野良猫の問題を解決するのは、外で過酷な生活を強いられている猫のためだけではなく、餌をあげている人、猫に困っている人のための活動でもあるんだと、その現場を経験して思うようになりました。
猫に餌をあげる方って、高齢者で、しかも一人暮らしで孤独を抱えている方が多いのが現状です。つまり弱い立場の方たちです。「自分で捕まえて保健所に連れて行け」というのは無理ですよね。専門的な組織が関わらないと解決できないんです。もともと警戒区域の犬猫の保護をしてきた私たちが野良猫の問題に関わるようになったのも、専門的な組織の必要性を感じたからでした。
餌やりは続けてもいいんです。でも、その代わり、不妊去勢手術は受けさせる。手術した猫を地域で飼うというのが理想です。そうなれば、野良猫じゃなくて「地域猫」になれる。関東や関西の都市部では、猫好きの方が不妊去勢手術を実施したり、公園で猫の寝床を作ったり、ウンチを拾ったりしながら、共生を進めています。いわきも、早くそういう地域になればと思っています。
野良猫を「地域猫」に。そこには、人と猫と地域の理想的な関係が見えてきます。しかし、クラウドファンドで鈴木さんを支援した人のほとんどが県外の人だったように、地域猫の概念は、まだまだ地域に共有されていません。今後の課題を伺いました。
鈴木:餌をあげる方は、多分、怒られても餌をやってしまうと思います。仮に餌がなくなったとしても、猫たちは他の場所に移るだけなので問題は解決しません。これ以上増やさないということが大事で、だから不妊去勢手術をして一代限りの命を全うしてもらう。そうやって長期的に減らしていくしかないと思っています。
「餌をあげるな」という考えから一歩踏み出して、「不妊去勢手術をしたうえで、ごはんを与え、寝床を設置し、糞の始末をし、一代限りの命を全うさせる」という考え方に切り替えることが大事です。こうした活動を「TNR活動」といいます。「Trap:捕獲して」「Neuter:不妊去勢手術を実施し」「Return:元の場所に戻す」、この頭文字をとったものです。これを、いわきでも広めていきたいですね。
いわき駅前の飲食店街「夜明け市場」にも野良猫がたくさんいて、問題になっています。「夜明け市場」は浜魂の主催者タタキアゲジャパンのコワーキングスペースがあり、浜魂以外にもまちづくりの活動をしている人が多く集まる場所。野良猫の問題は私たちにとっても身近な問題です。
鈴木:餌をやるなってだけじゃ解決しないんですよ。関わるひとみんなの意識を変えないと。地域で活動している影響力のある人たちに声をあげてもらうこと。これが活動を広げるためにも必要なことだと思います。
あとは、やっぱりこれまで関心のなかった人たちにも関心を持ってもらいたいので、保護猫サロンに、一人でも多くの人たちに来てもらいたいです。猫の可愛さに触れて、保護猫たちの現状や、野良猫の問題について少しでも考えてもらえたらと思っています。
プロフィール
鈴木 理絵(すずき りえ)
NPO法人動物愛護団体LYSTA代表理事。1979年、いわき市平出身。スーパーひたちの車内販売の仕事をしていたが、福島第一原発事故に被災したペットを助けるために仕事を辞め、LYSTAを立ち上げ、現在に至る。
▽里親募集型保護猫ふれあいサロン「Ohana-オハナ-」
http://ohana-cat.com/
鈴木さんのプレゼン 第4回ハマコン「地域猫の問題を解決したい」
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